一枚の絵「アゲハが見た世界」

今月前半、久しぶりに都心での個展を開催した。
その中からの1枚「アゲハが見た世界 1」。



アゲハの4枚の羽のうち、描写したのは1枚のみ。鑑賞者の位置をアゲハに接近させ、アゲハの眼をとおして世界を見下ろす視界をつくる。
その世界とは?

例えば、もうもうと土煙をあげながら何かが崩れ落ちている世界。アゲハは間一髪、それに巻き込まれないように舞い上がり、スローモーションのような崩壊のさまを眺める。アゲハの羽は、シルバーの線描のみなので、羽を透かして覗ける下界は手が届きそうなほどに近い。
土煙の中にぼんやりと、書物や時計のようなものが見える。この画像は、意図したわけではなくたまたま転写したものだけれど、人間の英知や積み上げた時(歴史)とみることも可能だ。それが、がらがらと…。


春から夏にかけて、アゲハ8匹を卵から羽化まで観察してみて、人間以外の生き物の存在が、人間を客観視させる鏡の役割を担っているように感じる。無垢な一途な、そしてミラクルな野生の生きざまは、シンプルにはいかない人間世界のさまざまな事柄を顧みさせてくれる。