一枚の絵「アゲハが見た世界」

今月前半、久しぶりに都心での個展を開催した。 その中からの1枚「アゲハが見た世界 1」。 アゲハの4枚の羽のうち、描写したのは1枚のみ。鑑賞者の位置をアゲハに接近させ、アゲハの眼をとおして世界を見下ろす視界をつくる。 その世界とは?例えば、もう…

蛹のとき 〜変わろうとする私たち人間を重ねて〜

春のある日、山椒の葉にアゲハの卵を見つけ、観察を始めたその生態は、驚きと不思議に満ちていました。変化に富む行程のなかでとりわけ不思議なのが、蝶になる直前の蛹の時期です。それまでとは打って変わって、死んだように無反応になる、ファラオの棺のよ…

しなやかにつよく

暗くて長い厳しい冬、周囲の大国に翻弄され続けた過酷な歴史 ー 森と湖とオーロラが美しく、穏やかな人々が住む国という印象からは想像できないほどの試練を、フィンランドの人々は乗り越えてきた。 私が出会ったフィンランド人は、潔い決断力とまっすぐな意…

アゲハの羽化、そして・・・

無反応の物体と化した蛹カプセルは、撫でてもつまんでも、何の反応もない。蛹になったばかりの頃の薄緑と黄色の美しい表面は、乾ききって灰色に変わり、糸で枝にひっかけた姿は、ぶらぶらと揺られたまま。生きている証もない。そんな蛹の期間は、予想よりも…

脱皮の不思議

1匹目の青虫では、勾玉型の前蛹から蛹へ脱皮する瞬間を目撃することができなかったので、2匹目からは、タイミングをとらえようと、わずかな変化を見守ることにした。タライの縁で前蛹化するしかなかった“苦労虫”は脱皮を迎える4匹目なので、それまでの経…

つぎつぎとアゲハの前蛹化

最初の青虫の蛹化は、初めての目撃だったせいか、すべてが新鮮で、驚きで、不安で…。そして、手がかかるほどかわいさが増す。子供のいない私にも、親心なるものを自覚するような体験だった。“やんちゃ青虫”の無鉄砲さに、他の4匹は、かすんで見えるただの青…

アゲハの成長に手を貸して

観察している中で最も大きく育ったアゲハの幼虫(青虫)が、いつになく激しい行動を見せ始めた。 葉を食べるでもなく、全速力で山椒の枝から枝へ渡り歩き、先端までたどり着くと虚空に半身を乗り出してぐるぐる動かし、宙に何かを探しているような動きだ。新…

アゲハを見守り中

5月半ば、柚の葉に産みつけられていた宝石のようなアゲハチョウの卵は、数日後には小さな黒い幼虫に変わっていた。最初はすすゴミのようだったのが、日増しに大きくなっていく。よーし、蝶になるまで見届けるぞ!と思っていたら、すべて姿を消した。鳥に捕…

足元の異変

ひと月程前、夫が緊張した面持ちでやって来て言った。「大変なことになっている…」 聞けば、棚から引っ張り出したファイルの書類がごっそりとぼろぼろになっていることに気づき、さらに棚自体も、そして棚の下の床もぼろぼろに…。も、もしや白蟻?! さっそ…

Pina Bauschの身振り

ピナ・バウシュの表現世界を表した2本の映像「夢の教室」と「踊り続けるいのち」を見た。2009年にこの世を去り、もう彼女の新作に会う機会は断たれてしまったけれど、生前の幾度かの公演を見続けて、なにかが私の感覚や意識の深いところに届いた瞬間をこれ…

文化活動を支える眼差し

1週間前の夕方、めずらしくファックス受信の音がした。紙面を見ると信じがたい文面がそこにあった。私の知人の中でも最もエネルギッシュな10人に入りそうな方、Nさんの訃報だった。 Nさんは、2003年から2006年にかけて私が実行委員会代表として企…

人格をもつ家

母の傘寿を身内でお祝いするため、福島に帰省した翌日、宮城県に向かった。これまで東北の被災地は何度か訪ねたが、まだ足を踏み入れていなかった石巻市から南三陸町までのエリアを訪ねてみた。震災から10ヶ月。幹線道路から見る市街地は、瓦礫が撤去され…

先輩アーティストの背中

風邪気味で、養生しながらデスクワークした日のこと。未整理になっていた名刺を、PC内の住所録やメールアドレス録に入力して、名刺ファイルに差し込んだら、古い名刺に眼がとまった。そういえば、若かった頃に出会い、もう長いこと会っていない海外のアーテ…

吹雪の新潟をゆく

下書きのまま時が経ってしまったが、2週間前、調査のため新潟市を訪ねた。 天気予報は、その日を狙ったかのように「雪で、平地でも積もるでしょう。」と言っている。昼頃に到着した現地は、ウェットな大粒の雪が降っていた。仕方がない、観光などはできそう…

海の息

先月、福島県南相馬市原町区を訪ね、海岸のほうへ歩いて行くと、海から不思議な波音が聴こえてきた。 今までに聴いたこともない音。波が砂浜にざぶんと落ちる音と重なるように、波がつくる風のような音がする。これは上空に吹く風音とは違う。たとえば、重傷…

自ら回復しようとする力

脳梗塞によってダメージを受けた脳の内部では、再び手足への指令を伝達するために、破壊された部分を迂回して神経細胞がつながろうとするらしい。自ら回復しようとする力を持っているのだ。この夏、東北の被災地、原発の西20キロを通過する国道399号を…

ノルウェイ リレハンメルでのアートリサーチ

7/27 明朝にはここを発つので、私の滞在は今日一日のみ。今日は、昨晩エギルとマーレットが私の企画「精神の"北"へ」のリサーチのために計画してくれたスケジュールに合わせて行動することになる。“私のリサーチのために”でありつつ、彼らにとっては“日本と…

ノルウェイ オスロからリレハンメルへ

7/26 シャリンゲイからオスロ郊外の自宅へ戻ってきたエリザベスが、昼前にホテルまで来てくれて、オスロでの数時間を同行してくれる。 ノルウェイでは、人々は英語をよく話すけれど、街なかでの英語表記はあまりなくて、必要な場所を探すのに苦労していた。…

ノルウェイ オスロでのサプライズ

7/25 昨日、アーネや仲間達に別れを告げ、ボーデからオスロへ飛んだ。ボーデの空港で手に入れたノルウェイの新聞3紙は、どれもテロ事件の報道でいっぱいだった。どれも読めないけれど、写真から内容が想像できた。オスロ空港からホテルへ向かうために乗った…

KUNST I NATUR 2011  ノルウェイ 制作の日々 6

7/23 オープニングの朝。無情にも、昨夜から降り始めた雨足が強くなっている。滞在先の家で、めいめいが朝食を準備しながら、私はヴィグディスと、日本で言う"雨女、雨男"の話をした。誰なの? 今日のこの日に雨を降らせるのは!! 覚悟して、雨合羽を着込ん…

KUNST I NATUR 2011  ノルウェイ 制作の日々 5

7/22 昨夜、制作したおかげで、今日は余裕をもって最後の仕上げに取り組める。文字の形をした"廃墟"に、かつて街だった人間の暮らしの名残を表現する。積み上げた石垣が崩れたように、規則的に立っていたポールが折れ曲がったように…。部分的に細部を作ると…

KUNST I NATUR 2011  ノルウェイ 制作の日々 4

7/21 作品を廃墟らしく創り上げるために必要な石は、私の設置場所である岩の丘の登り口、道路に面したところにたくさん転がっている。ストライプ状に見える地層が、層に沿って割れやすく、まるで自然にできたブロックのように、直方体や平板な形ではがれ落ち…

KUNST I NATUR 2011  ノルウェイ 制作の日々 3

7/19 制作日数は半分を越えている。そろそろ見通しをたてなければならない。昨夜から雨で、午前中は作業が無理そうなので、アーネの自宅を訪ねてメールをチェックさせてもらう。ブログの書きためた分をアップしようかとも思ったが、画像の取り込みなどをする…

KUNST I NATUR ノルウェイ 制作の日々 2

7/17 現地滞在の3日目。早く作品設置ポイントを決定しないと、制作日程が厳しくなる。作家達はそれぞれに地域内を歩き回り、インスピレーションをかき立てるような場所に出会おうとしている。道でばったり出会うたびに、「ポイントは見つけたか?」と尋ね合…

KUNST I NATUR 2011  ノルウェイ 制作の日々 1

7/15朝、アーネさんがホテルまで車で迎えにきてくれた。「総勢20名分の食料を、現地へ持参する必要があるの」というので、いっしょに買い出しを手伝う。今日のうちに16人のアーティストとその連れが到着することになっていて、運転中にもしばしば彼女の…

ノルウェイ滞在開始7/15

ノルウェイ中部の北極圏内の街 Kjerringoy(特殊な文字は表記できないが、「シャリンゲイ」という感じの発音らしい)で開催される[KUNST I NATUR 2011]という国際野外展に参加するため、7/15から現地滞在を開始している。 環境保護の意識を持って、生活して…

『Into Eternity』10万年先を見据えるフィンランド人

原発事故の実状は、事故直後の報道よりもはるかに深刻であることが明らかになった。世界有数の地震国日本に、アメリカ、フランスに次ぐ54基も原子炉をつくりながら、その安全対策の無策ぶりが露呈され、もう凍り付きそうだ。そんな折り(もう2週間以上前の…

被災地を訪ねて

ゴールデンウィークを生かして、夫と東北の被災地を訪ねた。被災地に足を踏み入れたのは2度目となる。ふるさと東北が甦るまでずっと見続け、応援していくために、今の姿を眼に焼き付けておきたい。 初めて訪ねたのは、震災後1ヶ月直前の4月5日。 福島第…

庭からのおくりもの

地震から2週間が過ぎた。福島第一原発の事故は、未だ解決の兆しが見えない以上、ただ好転すること、これ以上の犠牲と被害が広がらない事を祈るばかりだ。東京でも毎日余震があり、それも時には大きく、地震が次第に収束に向かっているとは実感できない。東…

非日常な日常

地震から1週間目。報道の中心は、福島県海岸沿いの福島第一原発で次々に起こる爆発事故に集まっている。地震と津波の甚大な被害のみならず、これに放射能汚染の危機が重なったことは、一気に、広範囲の人々への緊迫感をもたらしている。郵便局で義援金振込…